特撮を撮るための思考法~イメージを視覚化する~

雑感ノート

今回は特撮映画を作るためにどのような工程を踏んで映像化していくのかを解説します。

普通のドラマと違い特殊な撮影が絡む特撮業界では普段よりも撮影に入る前に準備する事があります。

今回はそのポイントに焦点を絞ってお伝えしていきます。

この記事を読めばどのような工程を経て特撮映画が撮られているかが理解できると思うので興味のある方はぜひ最後までご覧ください。

本記事でわかる事
  • 特撮映画の制作工程
  • 特撮映画のポイント

特撮を撮るための思考法~イメージを視覚化する~

通常の映画制作と特撮映画制作の違い

まず普通のドラマを撮影する場合の基本となる工程を並べてみたいと思います。

普通のドラマの制作工程
  1. 脚本制作
  2. キャスティング
  3. ロケハン
  4. 美打ち
  5. 衣装合わせ
  6. 本読み・リハーサル
  7. 本番
  8. 編集

細かい事は省いていますが、大体こんな感じです。

まず脚本を作り、役者を決め、撮影場所を決め、必要な美術を決め、衣装小道具をきめ、リハをして本番という形です。

しかし、ここに特撮を絡めた話になるともう一段階工程が増えます。

次は話に特撮(造形を含む)が絡んだ場合の工程を例に挙げています。

特撮が絡むドラマの制作工程
  1. 脚本制作
  2. キャスティング
  3. 造形デザイン打ち
  4. ロケハン
  5. 絵コンテ打ち
  6. 美打ち
  7. 特撮合成打ち(絵コンテベース)
  8. 衣装合わせ
  9. 造形チェック
  10. 本読み・リハーサル
  11. 本番
  12. 編集
  13. 仕上げ合成打ち(撮影素材ベース)

こちらもかなり簡略化していますが、以上が特撮、特に造形が絡む撮影で増える事項です。

特に造形が絡む場合は、造形の制作に日程調整が必要となるため、撮影に間に合わせるためには早い段階から着手する必要があります。

場合によっては脚本化よりも先にデザインし、その造形を基に脚本を変えていくなんてこともあります。

通常のドラマより増えた新規の項目としては、登場する造形のデザインを決め絵コンテを作り、特撮の撮り方を決める合成打ちをして、随時造形物の造形のチェックを行い、本番の後は素材ベースの合成打ちをもう一度行う。という項目が増えています。

次に各項目について詳しくお伝えしていきます。

造形のデザインをする

造形が絡むドラマを撮影する際にもっとも注意しておかなければいけない事が「造形制作には時間がかかる」という事です。

例えば怪獣造形を例にどのくらいの工程を踏むかというと以下のようになります。

【怪獣造形の進行一例】
  1. デザイン画を決める
  2. 雛形をつくる
  3. 顔原型を作る
  4. ウレタンでフォルムを作る(全体バランス)
  5. ラテ皮を張る(表面処理)
  6. 塗装して完成

という風に何工程も踏む場合があり、このチェックを毎度行います。この工程を全部行うとなると大体2~3ヶ月かけて完成に至るという流れになります。

そう考えると脚本の段階で造形物が出るとなったら、急いでデザイン画に取り掛かります。

(※造形がメインの話では脚本よりもまずデザインから始める場合もあります)

造形師はまずデザイン画を基に立体造形を行うため、デザイン画が必須となります。

造形を担当するデザイナーがデザインしたり、美術のデザイナーがデザインしたりと様々ですが、ビジュアルを作るという事がとても大事だという事です。

ビジュアルが出来てしまえば「これを準備しなければならない」という目標が明確になるので、話が進みやすいです。

またこのビジュアルがある事で、各部署に説明しやすくもなるので、造形が出てくる場合はなるべく早くデザインを上げる事が重要となってきます。

画コンテで目標のビジュアルをきめる

特撮が絡むドラマで必ず必要となってくるのが「画コンテ」です。

画コンテは最終的な映像の目標となるものです。

監督がこのように描きたいというビジュアルを絵にするわけですから、かなり明確になります。

とくに特撮(特殊撮影)は字のごとく、様々な特殊撮影技法や、合成技術を応用します。

それに伴い合成素材撮りや撮影技法も通常のドラマ撮影とは異なる事を行います。

そのため絵コンテが無い場合は目指す指針がない事になるので、準備が出来なくなってしまいます。

そうならないために必ず画コンテを用意しておきましょう。

画コンテは合成や特撮が絡むカットのみで構いません。

その画コンテを基にどう撮影すればいいか、どのような合成をすればいいかを検討するのが「特撮合成打ち」となります。

特撮合成打ちで撮り方を具体的に決める

通常のドラマでは全体の打ち合わせは美打ちぐらいですが、特撮が絡むドラマとなるともう一つ「特撮合成打ち」が必要となってきます。

合成打ちは画コンテを基にどのように撮影するかという技法を話し合う場です。

ここで画コンテが重要となってきますので、合成打ちまでに必ず画コンテは用意しておきましょう。

下記に画コンテを例を挙げます。

このような場合打ち合わせではどのような内容が話されるのでしょうか。

これは屋上で二人の男性が怪獣を見て驚くというカットです。

この場合、怪獣を合成する場所はロケ場所なのか、それともセットなのか、どのくらいの大きさの怪獣なのか、人物はロケ地でそのまま撮影していいのか、どこか別の場所でグリーンバック撮影をしなければいけないのか。

怪獣はグリーンバックで撮影するのか、はたまたセットで撮影するのか、背景のミニチュアSETは必要なのか、などを決めていきます。

これはただ単純に怪獣が合成されているカットなので、そんなに難しいカットではありませんが、これにワイヤーアクションが絡んだり、火薬が絡んできたりすると複雑になっていきます。

そのためにも画コンテが無いと無暗に準備する事になってしまうので、画コンテと合成打ちは必ず行ってください。

一見複雑なカットで合っても、一つ一つの素材を分解してどうやって撮っていくかを考える事が重要です。

そうする事で「この素材はこのように撮れば成立する」というように一つ一つクリアしていけば最終的にその映像は成立するという事になります。

一つ一つの素材は合成部.操演部.アクション部.撮影部.照明部.など各エキスパートから撮り方のアドバイスを貰えるので、その意見を参考にして撮り方を決めていってください。

画コンテを分解するという意識が大切です。

合成打ちの際にその撮影方法を行うにはロケ地の許可が必要。という事も出てきます。

例えば特機やフォグ.火薬など特殊効果を使うとなると必ず許可されているかの確認が必要なので制作部さんに確認してください。

複雑なカットはVコンテがおすすめ

どうしても画コンテで伝わりずらい複雑なカットというものもあります。

例えば1カット長回しなどのカットですね。

そういった場合はVコンテ(ビデオコンテ)がおすすめです。

画コンテでは2次元の視覚情報しかありませんが、実際に映像としてVコンテを起こせば3次元に認識でき、さらに最終的に目指すビジュアルが明確化されるため撮り方もずいぶん分かりやすくなります。

CG合成が多いハリウッド映画では実際撮影する前に、プレビズ(Pre Visualization)としてCGでアニメーションを作って目標とする映像を視覚化させておきます。

CGを使わずとも、スマホなどで簡単に動画を撮れるので、実際に人形でその動きを撮ったりしてVコンテを作っておけば、いざ撮影する段階になってもどのように撮ればいいかが分かりやすくなります。

ぜひやってみてください。

特撮にとって視覚化の重要性

特撮が絡む撮影において次のような事が特徴として言えます。

それは「イメージの明確な視覚化」という事です。

それはデザイン画にしろ、画コンテにしろ、Vコンテにしろ一貫して言えることです。

とくに複雑なカットであればあるほどより視覚的に明確なビジュアルがある事で撮影スタッフは混乱することなく撮影・進行することが出来るのです。

今後、監督やプロデューサーとして特撮や合成が絡む撮影をやる事になった場合は必ずこの「イメージを視覚化する」という事を念頭に置いて制作してみてください。

そうすることで難しいと思われていた特殊撮影という世界がまたひとつ開きやすくなるはずです。

ぜひこの記事が参考になれば幸いです。

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