巨大なものはゆっくり見える⁉ハイスピード撮影を使った演出とは
巨大特撮の特徴としてハイスピード撮影は欠かせない要素と言えます。
巨大なものが迫ってくる際、ズシンズシンとゆっくり迫ってくる方が断然巨大感が出るものです。
昔、よく映画の宣伝でゴジラがテレビのワイドショーなどに出てきた時は、普段見ていたゴジラと違いちょこまかした動きをしていて幻滅した記憶があります。
あれも映画ではハイスピード撮影が行われ巨大感を演出していたからなのです。
今回は巨大特撮に使われるハイスピード撮影の概念と演出方法をお教えします。
- 遠くのものは遅く、近くの物は早く
- 大きいものは遅く、小さいものは早く
- 演出はリアルだけではく印象的に
遠くのものは遅く、近くの物は早く(距離と速さの関係)
まずカメラに写るスピード感はカメラと被写体との距離に比例して変わります。
例えば遠くに飛んでいる飛行機と、近くを走る自転車ではそのスピード感は全く違います。
![](https://www.cinemagarage.jp/wp-content/uploads/2023/08/fps02.png)
遠くの飛行機はゆっくり見え、手前を走る自転車は一瞬で横切ってしまいます。
これは見える範囲が遠くになればなるほど広くなることで起こる錯覚です。
物凄く遠くにあるものは当然小さくなります。それは距離も同じで、遠くになればなるほど距離は圧縮され短く見えていきます。
そのため高台から一望する景色など物凄い距離が一目で見る事が出来ます。
距離が圧縮されるという事は移動距離も圧縮されて見えるわけで、そこを移動する物体の速度もその距離に合わせてゆっくりとなります。
冒頭の飛行機と自転車もそうですが、これが反対に飛行機が手前を飛んでいれば物凄いスピードで横切っていきますし、遠方の自転車はいつまでたっても視界の中にいるでしょう。
巨大特撮にとっての距離感はカメラと怪獣との位置関係にあります。
そもそも怪獣は1/25スケールのミニチュアの中にいます。
遠方の飛行機と同じくカメラの位置からすると何百メートルも遠方に立っていると同じことなのです。
しかし、それを通常のコマ数(24コマ)で撮ってしまうと、この距離感がリアルな1/1の距離感として表現されてしまい、遠方にいる感覚がなくなってしまうのです。
そのため怪獣を撮影する際は基本的にのノーマルコマ(24コマ)で撮らずに1.5倍(36コマ)や2倍(48コマ)で撮る事がほとんどです。
撮影時に使用するハイスピード撮影のコマ数は通常の24コマ(ノーマル)の他に以下のようなものがあります。
36コマ(1.5倍)・48コマ(2倍)・72コマ(3倍)・96コマ(4倍)120コマ(5倍)240コマ(10倍)
これはカメラの性能によって変わりますが、巨大特撮でよく使われているコマ数は大体このコマ数になっています。
他にもアクションシーンでスピード感を出したいなどの理由で22コマにコマ数を減らすなど、コマの数で様々な演出方法があります。
大きいものは遅く、小さいものは早く(大きさと速さの関係)
距離と同じく大きさも速さに比例します。
巨大なものは腕の長さや足の幅など距離があるため小さい者から見たら遅く見え、逆に巨大なものはが小さいものを見ると全ての距離が短いため早く見えます。
これは見る人物と被写体との対比で変わるもので、例えば人間であってもネズミからみたら巨大なものとして映り、その動きは緩慢に見えるでしょう。
![](https://www.cinemagarage.jp/wp-content/uploads/2023/08/fps01.jpg)
逆に巨大なものであるはずのウルトラマンであっても。ウルトラマン同士が会話をしているとたちまち巨大感をなくしノーマル(24コマ)で撮っても違和感なく映ります。
このようにカメラがどの視点に立って被写体を写しているか、を意識することでどのコマを選択するかが重要になってきます。
逆に意識していないと巨大なものを撮っているはずなのに何故か巨大感がなく感じてしまう事になりかねないのです。
現場で監督を悩ますコマ数選択
このように様々な理由から巨大特撮ではハイスピード撮影を多用してきました。
しかし、これが監督の頭を悩ませます。
なぜならこのコマ数の選択を毎カットごと監督自ら決めなければならないからです。
先程お伝えした距離と速度の関係は専門的な定義はあれど明確な正解はありません。
早すぎたりゆっくり過ぎたり、これは監督の経験値でしか判断できませんし、ハイスピード撮影は巨大感の演出だけでは無いからです。
例えば爆破などの火薬演出。
火薬などは爆発が早い火薬や黒煙がゆっくり上がる火薬もありそれに合わせて4倍(96コマ)や5倍(120コマ)に速さを変え撮影します。
その他合成カットは画ブレを抑えるためにコマ数を上げたり。
他にも仕掛けがなくても印象的なカットにするためにあえてコマ数を上げる場合もあります。
このように様々な場面で様々な理由からコマ数選択するわけで、特撮を監督する方はその度に頭を悩ませています。
とても難しいですね。
これに慣れるには現場をこなす以外ないのですが、他にも沢山の怪獣やロボット物などの巨大特撮映画があるのでそれを見て怪獣やロボットの速度に注目してみるのも面白いです。
いろんな作品で巨大なものが描かれていますが、その1カット1カットが以外に細かくスピード感を調整している事がわかります。
是非一度このスピード感に注目して映画を見てみる事をおススメします。意外な発見があるかもしれませんね。
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